広島地方裁判所 昭和35年(行)4号 判決 1962年7月18日
島根県益田市大字上吉田一二七番地
原告
島田大太郎
広島市基町一番地
被告
広島国税局長
磯江重泰
右指定代理人
広島法務局訟務部長
森川憲明
右指定代理人
広島法務局検事
上野国夫
右指定代理人
広島法務局訟務部第二課長
築地保
右指定代理人
大蔵事務官
米沢久雄
西村盛次郎
田原広
中本兼三
谷領次
岡野進
右当事者間の頭書事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
(原告の申立)
一、(一) 被告が昭和三四年一一月二〇日付でなした原告の昭和三二年度分所得税の総所得金額を三、六〇九、一四七円とする旨の審査決定のうち金五八八、六七九円を超える部分
(二) 被告が昭和三五年八月一日付でなした原告の昭和三二年度分所得税の重加算税額を五四七、五〇〇円とする旨の審査決定を取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(被告の申立)
主文同旨の判決を求める。
第二当事者双方の主張および答弁
(請求原因)
一、原告は課税庁に対し昭和三三年三月一五日付で昭和三二年度分の所得税の確定申告をしたところ、昭和三四年四月五日これに対する更正決定の通知を受けたので、同年五月四日右更正決定に対し再調査の請求をしたところ、同年七月一七日同請求を却下する旨の決定の通知を受けた。そこで更に同年八月一三日被告に対し右審査の請求をしたところ、被告は同年一一月二〇日付で原告の昭和三二年度分所得税の総所得金額を三、六〇九、一四七円とする旨の審査決定をし、更に昭和三五年八月一日付で原告の昭和三二年度分所得税の重加算税額を五四七、五〇〇円とする旨の審査決定をし、いずれもその頃、原告に右各決定通知書を送達した。
二、しかし、原告の昭和三二年度分の総所得金額は五八八、六七九円であるから、被告の審査決定のうち右金額を超える部分は原告の右総所得金額を過大に認定したもので違法であり、前記重加算税の決定も右過大な認定に基づくもので違法であるから、それぞれその取消を求める。
(被告の答弁)
原告主張事実のうち第一項はこれを認めるが、その他は争う。
(抗弁)
被告がなした各審査決定はいずれも違法である。すなわち、
一、原告の昭和三二年度分の総所得金額は三、六〇九、一四七円であり、その算定根拠は次のとおりである。
(一) 農業所得(損失) 五三四、八九〇円
(二) 給与所得 一八一、二三一円
(三) 不動産所得
別表記載のとおり合計九〇四、六七六円である。
同表中番号3の金四〇〇、〇〇〇円は名目上は保証金とされているが、原告は訴外大畑駒治から右金員を受領すると同時に同人をして右金員の返還請求権を放棄させているのであるから、右金四〇〇、〇〇〇円は不動産所得に該当する。
(四) 譲渡所得 三、〇五八、一三〇円
すなわち、原告は昭和三二年度中に、
(1) 訴外日本通運株式会社に対し島根県益田市大字上吉田字千歳一番地一などの土地のうち宅地七二坪を代金三、六〇〇、〇〇〇円で売り渡したが、その取得価格は金五〇七、四四〇円であるから、その所得金額は三、〇九二、五六〇円になり
(2) 訴外益田市農業協同組合に同市大字上吉田字千歳六番地の一四、宅地一二五、七九坪を代金三、九七三、七〇〇円売りで渡したが、その取得価格は金八〇〇、〇〇〇円であるから、その所得金額は三、一七三、七〇〇円になる。
(3) 従つて右(1)および(2)の譲渡所得の課税標準額は右各所得金額合計六、二六六、二六〇円から金一五〇、〇〇〇円を法定控除した残額六、一一六、二六〇円に一〇分の五を乗じた三、〇五八、一三〇円となる。
(五) 総所得金額 三、六〇九、一四七円
以上(1)ないし(4)の所得を合計すると、原告の昭和三二年度分総所得金額は三、六〇九、一四七円となる。
二、原告は、
(一) 一の(四)の(1)において述べたとおり、訴外日本通運株式会社に対して宅地を売り渡した際、金三、六〇〇、〇〇〇円を受領しながら、そのうち金三、〇〇二、四〇〇円は同会社との間の宅地賃貸借契約の保証金として受領し、右契約期間が満了する際に同会社に返還する旨の同会社との覚書を作成している。しかしながら、原告が他方で右訴外会社との別途特別契約書によつて同会社をして右金三、〇〇二、四〇〇円について返還請求権を行使しない旨を約させ、同契約書は一通だけ作成して原告がこれを保管していることからみて、右金三、六〇〇、〇〇〇円はすべて右宅地の売買代金として受領していることが明らかであるから、原告は同人が右宅地を代金三、六〇〇、〇〇〇円で売渡したことを隠ぺいし、これを代金五九七、六〇〇円で売り渡したように仮装して確定申告をしていたものであり、
(二) 一の(四)に(2)おいて述べたとおり、訴外益田市農業協同組合に対して宅地を売り渡した際、現実に右売買代金として金三、九七三、七〇〇円を受領しながら、次のとおり内容虚偽の文書を作成して右事実を隠ぺいしようと考え右金員のうち金三、一七四、七〇〇円については土地の賃貸借契約の保証金として受領し、かつ右契約期間が満了する際に右組合に返還する旨の同組合との契約書を作成するとともに、原告が右組合から右金員を借用した旨の証書を作成したうえ、同組合に対し右債務について原告所有の不動産に抵当権を設定した旨の証書を作成し、もつて原告が前記宅地を代金八〇〇、〇〇〇円で売り渡したように仮装して確定申告をしていたものである。
(三) そこで右事実に基づき重加算税額を算出すると次のとおり金五四七、五〇〇円となる。
(1) 一般に所得税の課税標準額は次のとおり計算される。
総所得金額-所得控除額=課税所得金額
これを本件に適用すれば原告の課税所得金額は次のとおり三、三三一、一四七円となる。
3,609,147円-278,000円=3,331,147円
これに所得税法所定の税率を乗じて得た税額一、一八五、八九五円から源泉徴収税額二四、一四五円を控除すると原告の昭和三二年度の税額一、一六一、七五〇円が算出される。
(2) 次に、原告の昭和三二年度の総所得金額三、六〇九、一四七円から同人が仮装隠ぺいしていた事実に基く前記譲渡所得金額三、〇五八、一三〇円を控除すれば、同人が仮装隠ぺいしていない所得金額は五五一、〇一七円となるが、同人は確定申告においてこれを超える七三〇、〇〇二円の所得金額を申告しているのでこれを仮装隠ぺいしていない所得金額としてこれに対する所得税額を算出すると次のとおり六五、七五五円となる。
(確定申告額)(所得控除額)(課税所得金額)
730,002円-278,000円=452,002円
(総所得金額に対する税額)(源泉徴収税額)(税額)
89,900円-24,145円=65,755円
(3) そこで右(1)の税額一、一六一、七五〇円から右(2)の税額六五、七五五円を控除した金一、〇九五、九九五円を基礎としてこれに一〇〇分の五〇を乗じて得た金五四七、五〇〇円が重加算税額となる。
(抗弁に対する答弁)
一、原告の農業所得に生じた損失が金五三四、八九〇円であること、原告の給与所得が金一八一、二三一円であること、不動産所得に関する主張中別表番号10111315の各不動産所得の所得標準率および所得金額ならびに別表番号3の賃料収入金額および所得金額を除く事実、原告が訴外日本通運株式会社および同益田市農業協同組合に対しそれぞれ被告主張の頃その主張のような各宅地を売り渡したこと、右各宅地の所得価格が被告主張のとおりであることはこれを認める。なお、別表番号10111315の各不動産所得の所得標準率および所得金額についてははじめ被告の主張事実を認めたが、それは真実に反する陳述で、かつ錯誤に基づいてしたものであるから、その陳述を撤回して否認する。右各不動産はいずれも地代家賃統制令の適用を受ける借地および借家であるから、番号101113の各宅地貸付による所得標準率は五〇%であり、番号15の家屋貸付によるそれは七〇%である。その他の被告主張事実のうち原告がその昭和三二年度総所得金額を金七三〇、〇〇二円として確定申告をしたことを除く事実は否認する。
二、もつとも、原告が訴外大畑駒治から金四〇〇、〇〇〇円を受領したことはあるが、それは同人に別表番号3の宅地を賃貸した際、右契約の保証金として受領したものであつて、右契約が終了する際に同人に返還しなければならないものであるから不動産所得とはならない。
三、(一) 原告が訴外日本通運株式会社に被告主張の宅地を売り渡した価格は金五九七、六〇〇円であり、この点に関する被告の主張価格との差額金三、〇〇二、四〇〇円は原告が右会社に対し益田市大字上吉田字千歳一番地の一などの土地のうち宅地五〇〇坪七合一勺を賃貸しその保証金として受領したもので右賃貸借契約終了の際同会社に返還しなければならぬものである。
(二) 原告が訴外益田農業協同組合に被告主張の宅地を売り渡した価格は金八〇〇、〇〇〇円であり、この点に関する被告主張の価格との差額金三、一七三、七〇〇円は原告が同組合より昭和三二年二月二七日これを借り受けたもので売買代金ではない。
(自白の撤回に対する被告の答弁)
原告がなした自白の撤回には異議がある。なるほど別表番号1011の宅地は地代家賃統制令の適用を受ける不動産であるけれども、別表番号1315の不動産はいずれも同令の適用を除外された物件であり、更に原告は以上の各不動産について同令第一四条による届出をしていないばかりでなく、右10111315の各不動産の停止統制額を算出するならば、それらの年額はそれぞれ三、一一六円、七、〇八二円、一、二七五円、一九、五九五円となるにもかかわらず、別表記載のとおり原告はそれらをはるかに上回る賃料の交付を受けているのであるから、以上の各不動産所得については地代家賃統制令所定の停止統制額の範囲内の不動産所得の所得標準率を適用することはできない。
第三証拠関係
(原告の証拠等)
甲第一号証の一、二、第二ないし第九号証を提出、証人秋吉貫司、同柿内覚次郎、同岡本辰夫、同河野錦之助の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用、乙第五号証および第一一号証の一はその成立を認める、その他の乙号各証の成立はいずれも知らない。
(被告の証拠等)
乙第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし第一五号証、第一六号証の一ないし六、第一七号証を提出、証人大畑駒治、同三浦幸一、同山崎鶴雄、同駕屋晴治、同広本伊梭夫、同佐々木三郎、同河野錦之助、同高槻孝男、同大畑典男、同岡田五郎、同浅田和男の各証言を援用、甲第一号証の一、二、第二、第六、第七、第九号証はいずれもその成立を認める、同第五号証のうち法務局作成部分の成立は認めるがその他の部分の成立は知らない、その他の甲号各証の成立はいずれも知らない。
理由
一、本件審査決定成立に至るまでの経過
原告が課税庁に対し昭和三三年三月一五日付で昭和三二年度分所得税の確定申告をしたところ、昭和三四年四月五日これに対する更正決定の通知を受けたので、同年五月四日右更正決定に対し再調査の請求をしたところ、同年七月一七日同請求を却下する旨の決定の通知を受けたこと、そこで原告が被告に対し同年八月一三日右審査の請求をしたところ、被告は同年一一月二〇日付で原告の昭和三二年度分所得税の総所得金額を三、六〇九、一四七円とする旨の審査決定をし、更に昭和三五年八月一日付で原告の昭和三二年度分所得税の重加算税額を五四七、五〇〇円とする旨の審査決定をし、いずれもその頃原告に右各決定通知書を発送したことについては当事者間に争いがない。
二、原告の昭和三二年度分総所得金額について
(一) 農業所得および給与所得について
原告の昭和三二年度の農業所得に生じた損失が金五三四、八九〇円であること、原告の同年度の給与所得が金一八一、二三一円であることについては当事者間に争いがない。
(二) 不動産所得について
(1) 別表番号124ないし91214の不動産所得について
原告が昭和三二年度中に別表番号124ないし91214記載のような不動産所得を得、別表番号10111315記載のような賃料収入を得たことについては当事者間に争いがない。
(2) 別表番号3の不動産所得について
原告が被告主張の頃、訴外大畑駒治から金四〇〇、〇〇〇円を受領したことについては当事間に争いがない。
次に、成立に争いのない乙第一一号証の一、証人大畑駒治の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の二および甲第四号証(ただし後記信用しない部分を除く。)、証人大畑駒次、同高槻孝男の各証言を綜合すると、訴外大畑駒次は原告から昭和三二年八月一日益田市上吉田字元町九番地の二宅地一七一坪五合のうち六四坪二合九勺を賃借したこと、同日右賃貸借契約の保証金として金四〇〇、〇〇〇円を原告に交付し、右金員は右賃貸借契約終了の際右訴外人が原告から返還をうける旨記載した契約書(甲第四号証)を作成したこと、他方その頃右訴外人は原告に対し右保証金について将来返還請求をしない旨の書面を作成してこれを交付したこと、大畑駒治は訴外有限会社とらや旅館の実質上の経営者であるが、大畑駒治は右会社の計算において右金四〇〇、〇〇〇円を支出し、その際同会社の商業帳簿上これを宅地賃借権の権利金として記載していることが認められ、右各事実を考え合わせると、原告が訴外大畑駒治から受領した金四〇〇、〇〇〇円は前記宅地賃貸借契約の権利金であることを推認することができる。右認定に反する前掲甲第四号証の記載部分および原告本人尋問の結果は前掲各証拠と比照して信用することができず、証人秋吉貫司、同柿内覚次郎の各証言によつては右認定を動かすにたりず、その他に右認定を左右するにたりる証拠はない。
そして、別表番号3の宅地貸付による所得標準率が七〇%であることは当事者間に争いがないところである。
(3) 別表番号10111315の各不動産貸付による所得標準率および所得金額について
原告ははじめ別表番号101113の宅地貸付による所得標準率が七〇%であること、同表番号15の家屋貸付によるそれが八一%であること、従つて右不動産貸付による所得金額が別表記載のとおりであることを自白していたが、後にこれを撤回し、右自白は真実に反し、かつ錯誤に基づいてなしたものである旨主張するけれども、右自白が真実に反すること、すなわち別表番号10111315の各不動産による賃料収入金額が右各不動産に対する地代家賃統制令所定の停止統制額以下であることを認め得る何らの証拠がない。
そうすると、たとえ右自白の撤回が原告の錯誤に基づくものだとしても、自白の撤回はその効力を生じない。
(4) 結論
そうだとすると、別表番号1ないし14の宅地貸付による原告の所得金額は同表記載のとおりその収入金額合計一、二五〇、七三八円にその所得標準率七〇%を乗じて得た金八七五、五一六円となり、別表番号15の家屋貸付による原告の所得金額はその賃料収入金額三六、〇〇〇円にその所得標準率八一%を乗じて得た金二九、一六〇円となるから、原告の昭和三二年度分の不動産所得は以上を合計した金九〇四、六七六円となる。
(三) 譲渡所得について
(1) 原告が訴外日本通運株式会社および同益田市農業協同組合に対し被告主張の頃その主張のような各土地を売り渡したこと、右各土地の取得価格がいずれも被告主張のとおりであることについては当事者間に争いがない。
(2) 成立に争いのない甲第三、第七(ただし以上いずれも後記信用しない部分を除く。)、第九号証、証人広本伊梭夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証、第九号証、証人岡本辰夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、証人秋吉貫司、同山崎鶴雄、同駕屋晴治、同高槻孝男の各証言によれば、訴外日本通運株式会社益田支店は同支店の建物の敷地としてかねて原告から五七〇坪余の土地を賃借していたものであるが、昭和三二年始頃同支店の建物の一部を改造しようと企てた際、益田市地方の慣習として地上建物を改造する場合には地主に相応の謝礼をしなければならないところから、この際そのような謝礼等をするよりも改造予定の建物の敷地七二坪を原告より買い受けた方がよいと考え、同支店長山崎鶴雄が同支店々員岡本辰夫をして訴外秋吉貫司を仲介人として原告と被告主張の宅地七二坪の買い受け方につき交渉させた結果話がまとまり、右支店長は原告に対し昭和三二年二月九日右宅地を代金三、六〇〇、〇〇〇円(坪当り五〇、〇〇〇円)で買い受けることを約し、その頃右代金を原告に支払つたが、原告の要請により数額上右代金を五九七、六〇〇円と三、〇〇二、四〇〇円とに二分し、単に形式上前者を右土地の売買代金(すなわち坪当り金八、三〇〇円で買い受けた形)とする契約書(甲第七号証)を作成するとともに、右訴外会社が右宅地とは別個に原告から賃借している宅地五〇〇坪七合一勺につき保証金として金三、〇〇二、四〇〇円を支払い、右保証金は右貸貸借契約終了の際返還を受ける旨の覚書(甲第三号証)を作成交付したこと、その際これらとは別個に右金三、〇〇二、四〇〇円について右訴外会社が原告に対して将来返還請求権を行使しない旨の書面を作成交付したこと、右訴外会社の商業帳簿には右金三、六〇〇、〇〇〇円は前記宅地七二坪の買受代金として記載されていることを認めることができ、右認定に反する甲第三、第七号証の各記載部分および原告本人尋問の結果は信用することができず、その他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。
(3) 証人佐々木三郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第四、第五号証、証人河野錦之助の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証、証人佐々木三郎、同河野錦之助(ただし後記信用しない部分を除く。)の各証言によれば、訴外益田市農業協同組合は昭和三一年末頃からその下部組織である益田市蔬菜改良組合の市場を開設するため適当な敷地を物色していたところ、当時右農業協同組合理事をしていた原告の所有地の一部に着目して原告と交渉した結果、右協同組合理事長佐々木三郎は原告から昭和三二年二月一〇日頃被告主張の宅地一二五坪七合九勺を代金三、九七三、七〇〇円で買い受け、同月一一日から同年三月六日頃までの間に右代金を支払つたが、その際原告の要請を受け入れて、数額上右代金を八〇〇、〇〇〇円と三、一七三、七〇〇円とに二分し、単に形式上前者を右土地の売買代金とするとともに、登記簿上まだ右土地が原告の所有名義となつているところから、右土地につき原告が右農業協同組合に対して地代無償で地上権設定をした旨の契約書(甲第五号証)を作成し、右金三、一七三、七〇〇円は右地上権設定契約の保証金とし、同契約終了の際返還を受けるべきものとして右組合が原告に対して交付し、右保証金返還請求権を担保するため原告が右組合に対して原告所有の五筆の田畑について抵当権を設定した旨の契約形式を踏むに至つたこと、そしてその際前記組合長と原告との間に右保証金三、一七三、七〇〇円については将来返還請求をしない旨の契約がなされたことを認めることができ、右認定に反する甲第二、第五号証、乙第五号証、証人河野錦之助の証言の一部、原告本人尋問の結果は前掲各証拠、ならびに右のとおり一方で前記一二五坪余の宅地を原告が前記組合に売り渡した形を存続させておきながら他方で同一宅地につき原告が右組合に地上権設定契約をすることが矛盾している事実、更に前記地上権設定契約の地代が無償であるにもかかわらず右契約につき金三、一七三、七〇〇円にもおよぶ敷金としての保証金を授受するようなことは社会通念上異常と考えられることと対比して信用することができず、その他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。
(4) 次に、原告が訴外日本通運株式会社に売り渡した宅地の売買代金三、六〇〇、〇〇〇円からその取得価格金五〇七、四四〇円を控除すればその所得金額は三、〇九二、五六〇円となり、訴外益田市農業協同組合に売り渡した宅地の売買代金三、九七三、七〇〇円からその取得価格金八〇〇、〇〇〇円を控除すればその所得金額は三、一七三、七〇〇円となるから、右合計所得金額六、二六六、二六〇円に対する課税標準額は右金額から金一五〇、〇〇〇円を決定控除した残額六、一一六、二六〇円に一〇分の五を乗じた金三、〇五八、一三〇円となるから、被告が右金額をもつて原告の譲渡所得としたことは正当である。
(四) 結論
従つて、被告が以上の原告の所得合計金三、六〇九、一四七円をもつて原告の昭和三二年度分総所得金額とした本件審査決定は適法であるといわなければならない。
三、原告の昭和三二年度分所得税の重加算税額について
(一) 前記二の(三)の(2)および(3)において認定した事実、前記のとおり原告の昭和三二年度分総所得金額が三、六〇九、一四七円である事実、後記のとおり原告が昭和三二年度分総所得金額を七三〇、〇〇二円として確定申告をしている事実、ならびに成立に争いのない甲第一号証の二を綜合すると、原告は自己の昭和三二年度分譲渡所得税額の計算の基礎となるべき、原告が訴外日本通運株式会社に対し前記宅地を代金三、六〇〇、〇〇〇円で売り渡した事実、および原告が訴外益田市農業協同組合に対し前記宅地を代金三、九七三、七〇〇円で売り渡した事実をそれぞれ隠ぺいし、右株式会社に対しては代金五九七、六〇〇円で、右協同組合に対しては代金八〇〇、〇〇〇円でそれぞれ右宅地を売り渡したように仮装し、右隠ぺい、仮装したところに基づき前記確定申告書を作成提出したことを推認することができ、右認定に反する前記二の(三)の(2)および(3)掲記の各反対証拠は信用することができず、その他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。
(二) 右事実に基き重加算税額を算出すると次のとおり金五四七、五〇〇円となる。
(1) 原告の昭和三二年度分総所得金額金三、六〇九、一四七円から所得控除額二七八、〇〇〇円〔すなわち、成立に争いのない甲第一号証の一によつて認められる、社会保険料控除額二七、〇〇〇円、生命保険料控除額二一、〇〇〇円、扶養控除額一四二、五〇〇円、所得税法(昭和三二年法律第六九号による改正前のもの。)第一二条に基づく基礎控除額八七、五〇〇円の合計額〕を控除して得た課税所得金額三、三三一、一四七円の一〇〇円未満の端数を国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律(昭和二五年法第六一号)第五条第一項により切り捨てた額に所得税法所定の税率を乗じて得た税額一、一八五、八九五円から前掲甲第一号証の一によつて認められる、源泉徴収税額二四、一四五円を控除すると、原告の昭和三二年度所得税額一、一六一、七五〇円で算出される。
(2) 原告が同人の昭和三二年度総所得金額を七三〇、〇〇二円と記載して本件確定申告書を提出したことは原告において明らかに争つていないからこれを自白したものとみなすべく、右金額につき前項と同一の計算方法により税額を算出すると、それは金六五、七五五円となる。
(3) そこで右(1)によつて算出した税額一、一六一、七五〇円から右(2)によつて算出した税額六五、七五五円を控除した金一、〇九五、九九五円の一、〇〇〇円未満の端数を所得税法第五七条第六項、第五四条第四項により切り捨てた金一、〇九五、〇〇〇円が過少申告加算税の計算の基礎となるべき所得税額となるから、これに一〇〇分の五〇を乗じて得た金五四七、五〇〇円が重加算税額となる。
(三) 従つて、被告が原告に対し昭和三二年度分所得税の重加算税を五四七、五〇〇円とした本件審査決定は適法である。
四、結論
以上のとおりだとすると、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 溝口節夫 裁判官 倉橋良寿 裁判官 池田憲義)
別表
<省略>
(備考) 番号1ないし14の宅地貸付による所得金額は右収入金額合計一、二五〇、七三八円にその所得標準率七〇%を乗じて、番号15の家屋貸付による所得金額は右収入金額三六、〇〇〇円にその所得標準率八一%を乗じてそれぞれ算出した。